【WWF声明】脱炭素化への変革を示せていないGX推進戦略の閣議決定に抗議する


2023年7月28日、今後10年間の日本の温暖化対策の中核となる政策を示した「脱炭素成長型経済構造移行推進戦略」(以下、GX推進戦略)が閣議決定された。これは、同年2月10日に閣議決定された「GX実現に向けた基本方針」を踏襲しつつも、同年5月12日に成立の「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律」(以下、GX推進法)に基づく法定戦略として位置づけられるものである。
 WWFジャパンは、早期に実効性のあるカーボンプライシングを導入せず、国民的議論を欠いたまま原子力活用の積極利用へ方針転換することを、政府の法定戦略とすることに抗議する。IPCC第6次評価報告書統合報告書では、パリ協定の掲げる1.5度目標の達成のため、2035年までに温室効果ガス排出量を2019年比で60%削減する必要があることが示された。また、2023年5月20日に採択されたG7広島サミット首脳宣言では、排出削減対策のとられていない化石燃料の段階的廃止が盛り込まれるなど、脱炭素化への国際的な機運は更なる高まりを見せている。その中で、日本も先進国の名に恥じない形で排出削減を進め、世界をリードするためには、次の3点の改善が不可欠である。

1.法的強制力の下で十分な炭素価格を実現するカーボンプライシングの早期導入

GX推進戦略は、2026年度から自主的な排出量取引制度の「本格稼働」を、2028年度から化石燃料賦課金を、それぞれ導入する予定を示す。しかし、2030年までに排出量半減を求めるパリ協定のタイムラインに整合していない。また、排出量取引制度も当面は参加や目標の設定、その達成が企業の自主性に委ねられており、排出削減効果に疑問がある。
加えて、過度な負担が生じないように、それらの炭素価格には上限が設けられる。他方、IEAは2030年には先進国で1トン当たり130ドルの炭素価格が必要と見通すほか、実際のEU-ETSでは2023年2月に既に排出枠価格が一時100ユーロを超えた。これらに伍する炭素価格を形成できないと、各国・地域で導入が検討される炭素国境調整措置(CBAM)によって日本の産業競争力が損なわれる。
確実な排出削減と日本企業の競争力強化を両立するため、上述のタイムラインに沿う形で対象企業全体からの総排出量上限(キャップ)を設定し、法的な参加・遵守義務を課すキャップ&トレード型排出量取引制度を早期に導入するべきである。その際には、十分な炭素価格の形成と効率的な排出削減を妨げないことが重要である。これらの要素を反映させた排出量取引制度の設計を、GX推進法が定めるとおり遅くとも2025年の通常国会で成立できるように、2024年末には終えておくことが求められる。

2.原子力利用のあり方に関する国民的な熟議の確保

GX推進戦略では、脱炭素電源の1つとして原子力を位置づけており、今後の活用が図られる。これは2011年の東京電力福島第一原発事故後の政府方針を大きく転換し、原発の積極利用に向かうものである。他方、国民的な議論を欠く拙速な進め方であり、依然として国民の間で広くコンセンサスが形成されたとは言い難い状況である。
 当該戦略に盛り込まれた原子力活用策を実行する前に、まずは国民的な熟議の機会が確保されなければならない。例えば、参加者を国民から無作為に抽出して議論する場を設けるなど、実質において広く社会の意見を反映できるプロセスを設けるべきである。

3.2030年目標の達成に向けた再エネ・省エネへの集中的な投資支援

GX経済移行債(脱炭素成長型経済構造移行債)により実施される政府支援は、水素・アンモニアや革新炉など新たな技術の開発を中心に据えている。しかし、その一部は混焼による石炭火力発電の延命につながるほか、社会実装は2030年よりも後であるものも多い。現状のままでは、日本が掲げる2030年目標の達成に、限定的な貢献しか望めない。
 IPCC第6次評価報告書第3作業部会報告書では、1.5度目標の達成が再エネや省エネ技術など1トン当たり100ドル以下の方法で可能であり、その大半が20ドル以下と示される。現状のGX推進戦略でもペロブスカイト型太陽電池や地域間連系線の強化は含まれているが、こうした再エネ・省エネ既存技術の導入拡大に向けて支援を集中させるべきである。
 併せて、支援を実施するGX推進機構(脱炭素成長型経済構造移行推進機構)には民間の人材を登用することが示された。一方で最も重要な点は、同機構による投資支援の決定が透明性をもって行なわれることだ。運営委員会の議事録の公開や、支援基準の策定時のパブリックコメントなどは当然実施されるべきである。

 2023年7月での岸田首相の中東諸国歴訪など、GXの実現に向けて政府は海外との連携を目指しているが、日本は国内対策を加速させて世界に範を示すために、上記3点の改善に早急に取り組むべきである。

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